それが今、年末の特集番組として、再び津波被害の映像が流されています。
もちろん、「震災のことを忘れない」、「風化させてはいけない」ということは十分に解っています。
しかし、恐ろしい映像を観ることは、観ている方の心を蝕んでしまうということを知っていて欲しいのです。
問題なのは、津波の恐ろしい映像を観た方が、その時には何も感じなくても、後になってあたかもその現場に居たかのような記憶として残ってしまい、気づかないうちに大きなストレスとなってしまうことです。
つまり、頭では「これは映像」と思っていても、心は「本当に体験したこと」と勘違いしてしまうのです。
人間は誰でも、ストレスを溜めておく壺を持っています。
多少のストレスを受けたとしても、壺に入りきるストレスであれば、(気にはなっても)特別症状は現れません。
ところが、複数のストレスを受けて壺がいっぱいになったり、大きなストレスを受けて壺から溢れてしまうと、気づかないうちに次々と様々な身体症状が現れることがあります。
例えば、のどの違和感、胃のもたれ、焦燥感、緊張感、不安感、頭痛、めまい、耳鳴り、腰痛などです。このように、ストレスが限度を超えた時に起きる症状を、自律神経失調症といいます。
生きている限り、毎日何かしら多少のストレスは受けているでしょう。
仕事をしている人であれば、特に多いのは職場での人間関係のストレスです。
仮に、Aさんが上司から受けるストレスによって、ストレスの壺の6割くらいを占めているとします。
その場合、まだストレスの壺に余裕があるので、他に多少のストレスを受けたとしても、自律神経失調症にはなりません。
ところが、そのAさんが、津波の恐ろしい映像をじっくりと観てしまったら、後になってそれがストレスとなり、結果としてストレスの壺から溢れてしまうことが考えられます。

昨年までは耐えられていた何らかのストレス(ストレスの壺に入りきるストレス)を持っていた方が、耐えられなくなってしまって、自律神経失調症の症状が次々と現れるということが十分に起こりえるのです。
実際に、当院に来院なさった患者さんも、昨年までに比べて自律神経失調症であろうと思われる方が倍近くに増えました。

そういうわけで、「観てはいけない」というのは大げさですが、せめて、恐ろしい映像の部分だけでもなるべく観ないようにするのが無難です。
ちなみに、観た瞬間は大丈夫でも、後からストレスになるので、1年近く経ってから症状が現れることもあります。
是非、気をつけて下さい。